三十の抄

「三十の抄」 石垣りん

 牛蒡はサクサクと身をそぎ
 水にひたってあくを落す

 ほうれん草は茹でこぼされ
 あさりは刃物にふれて砂を吐く

 私はどうすれば良い
 ひたひたと涙にぬらし
 笑いにふきこぼし
 戦火をくぐらせ
 人の真情に培って三十年

 万人美しく、素直に生きるを
 このアクの強さ
 己がみにくさを抜くすべを知らず
 三十年

 俗に「食えぬ」という
 まことに食えぬ人間
 この不味きいのちひとつ
 ひとにすすめべくもなき
 いのちひとつ

 齢三十とあれば
 くるしみも三十
 悲しみも三十

 しかもなおその甲斐なく
 世に愚かなれば
 心まずしければ
 魂は身を焦がして
 滅ぼさんばかりの三十。

詩集『私の前にある鍋とお釜と燃える火と』

 いつだったかの「暮らしの手帖」に載ってた。

 いろいろジタバタで中途半端な三十路心に染みるです。

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